01 焼入れの目的

焼入れの目的は、機械構造用鋼と工具綱とでは異なります。機械構造用鋼に対する目的は、高い強度を付与することであり、焼入れ後に施す焼戻しとの組み合わせによって、要求される機械的性質を得るために重要な熱処理です。工具鋼に対する目的は、炭化物を固溶させて十分な硬さを得ることです。

02 炭素鋼の標準焼入温度

焼入れによって高い硬さを得るためには、必ず所定の温度に加熱してオーステナイト組織にしなければなりません。適正温度より低い場合には不完全焼入れになり、高すぎる場合には靱性や延性の点で問題が生じます。

炭素鋼の焼入温度は、基本的には下図に示すように、鉄ー炭素系平衡状態図から決められます。例えば、亜共析綱であるS45CのA₃変態点は780℃位ですから、標準焼入温度範囲は820~870℃です。

03 亜共析綱における焼入温度と金属組織

上図に示したように、炭素量が0.45%(S45C)について、３種類の温度から焼入れしたときの顕微鏡組織を下図に示します。

750℃(A₁変態点とA₃変態点の中間の温度)から焼入れしたとき

この場合における加熱状態ではオーステナイト(γFe)とフェライト(αFe)の混合組織ですから、これを急冷するとオーステナイトはマルテンサイトに変態しますが、フェライトは室温まで変化しません。

850℃(標準焼入温度の範囲)から焼入れしたとき

この温度で加熱したときには、完全なオーステナイト組織が得られますから、急冷してMs点を通過すれば理想的なマルテンサイト組織が得られます。

1000℃(標準焼入温度よりもかなり高温)から焼入れしたとき

焼入れによって完全なマルテンサイトが得られますが、850℃のときのマルテンサイトに比べて粗大であり、脆化していることが予想されます。