概要
鉄鋼材料の一般的な金属組織は、鉄(Fe)を主体とした生地と炭化物によって構成されており、化学成分によって炭化物の種類は異なる。
01 炭化物の種類
鉄鋼材料に存在する炭化物には、M3C型、M23C6型、M7C3型、M6C型、M2C型、MC型など種々のものがあり、これらは簡素含有量、合金元素の種類や含有量によって決まります。この炭化物の型を表す場合のM はMetal(金属)の頭文字を意味します。例えば、M3C型炭化物中のMはFe主体ですが、M6C型炭化物が生成されるためにはFeの他にWまたはMoが必要です。
型 | 結晶構造 | 硬さ(HV) | 実用鋼中の炭化物 | 主なJIS鋼種 |
M3C | 正斜方晶 | 1150~1340 | Fe3C、(Fe,Cr)3C | SK85、S45C、SUP6 |
M23C6 | 面心立方晶 | 1000~1800 | Cr23C6、(Cr,Fe)23C6 | SUS420J2、SUS440A |
M7C3 | 稠密六方晶 | 1800~2800 | Cr7C3、(Cr,Fe)7C3 | SKD11、SKD61、SKD1 |
M6C | 面心立方晶 | 1600~2300 | (Fe,Mo)6C、(Fe,W)6C | SKD4、SKH51、SKH57 |
M2C | 稠密六方晶 | 1800~3000 | Mo2C、W2C | SKH51、SKH57、SKH58 |
MC | 面心立方晶 | 2250~3200 | VC(V4C3) | SKH53、SKH54、SKH57 |
02 M3C型炭化物
鋼に存在する基本的な炭化物は、M3C型のFe3Cです。CrやMoなどを少量含有する合金鋼の場合は、Fe原子の一部がこれら合金元素に置換されます。M3C型炭化物が存在する鋼種は炭素工具鋼や機械構造用炭素鋼などの炭素鋼、もしくは少量のCr、Mo、Niなどを含有する機械構造用合金鋼などです。
03 M23C6型、M7C3型炭化物
M23C6型、M7C3型は高Cr鋼に特有の炭化物で、実用鋼では(Cr,Fe)23C6や(Cr,Fe)7C3で表示します。また高Cr鋼であっても、存在する炭化物がM23C6型か、M7C3型かはCr含有量とC含有量の比率によって決まります。
炭素含有量の異なる13Cr鋼から抽出した炭化物のXRDプロファイル
一般にはM23C6型に比べてM7C3型の方が粗大ですが、M7C3型であっても、C含有量が少ない鋼種の場合には微細です。
M23C6およびM7C3型炭化物の金属顕微鏡像
04 M6C型、MC型、M2C型炭化物
M6C型およびMC型は高速度工具鋼の代表的な炭化物で、とくにMC型のVCは他の炭化物に比べて硬質ですから、耐摩耗性に大きく貢献しています。一般に、VCは粗大ですから靭性に対しては不利に作用しますが、粉末ハイスの場合は、VCだけでなくすべての炭化物は微細です。
高速度工具鋼中の未固溶炭化物(SEMによる組成像)
M2C型は、実用鋼種では高速度工具鋼を550℃位で焼戻しした時に析出するもので、製品の耐摩耗性に寄与しています。
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