概要
通常の鉄鋼材料は、焼入れによって炭化物が固溶してマルテンサイト化し、焼戻しによって微細な硬質炭化物が析出して、耐摩耗性・靭性が向上します。
01 焼入れにともなう炭化物の固溶
鋼における焼入れの目的は、オーステナイト領域まで加熱して炭化物を十分に固溶させることです。炭化物の固溶量は焼入温度と加熱保持時間に支配され、前者の方がはるかに大きな影響を及ぼします。
ただし、焼入れによってすべての炭化物が固溶するわけではなく、とくにダイス鋼や高速度工具鋼など高合金鋼の場合には、未固溶の炭化物が必ず存在します。一例として下図に各種高速度工具鋼の焼入温度と炭化物量および硬さとの関係を示すように、焼入温度が高いほど炭化物量は減少することが明らかです。この残存した炭化物が未固溶炭化物で、炭化物の固溶が不十分な場合には高い焼入硬さを得られないことがわかります。
02 焼戻しにともなう炭化物の析出
焼入れによって炭化物は固溶し、焼戻しによって姿を変えて二次炭化物として析出します。この二次炭化物の析出によって生地の靭性が高められ、鋼種によっては硬化して耐摩耗性が向上します。
上図は、炭素量の異なる13Cr鋼について950℃から焼入れした後、200~700℃で60分焼戻ししたときの炭化物量の変化を示したものです。400℃までは炭化物量の変化はありませんが、鋼種に関係なく500℃付近から増加の傾向が見られ、600℃以上の焼戻しによって、焼なまし時と同程度になります。
一例として、下図に500℃以上の焼戻しにともなう二次炭化物の析出状況を示します。焼戻温度が高いほど二次炭化物の析出が活発になります。0.66C-13.7Cr鋼の場合は、焼入れによって多量の残留オーステナイトを生じており、500℃で焼戻ししたものは結晶粒界の周辺にマルテンサイト組織が観察される程度で、二次炭化物の析出は見られません。このことは、残留オーステナイトが存在する場合は、はじめに焼戻しによってマルテンサイト変態を生じ、次の焼戻しによって二次炭化物が析出することを示唆しています。
0.35C-12.8Cr鋼の焼戻しによる二次炭化物の析出状況(1150℃焼入れ)
0.66C-13.7Cr鋼の焼戻しによる二次炭化物の析出状況(1150℃焼入れ)
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