概要
焼戻しの目的は綱種や処理物によって異なるが、焼入れしたままのものよりも大幅に靱性が改善されることは、すべての綱種に共通の効果です。
01 焼戻しの目的と方法
焼入硬化した鉄鋼材料は、そのままでは非常に脆いので、たとえ耐摩耗性が最重視される切削工具や刃物類であっても必ず焼戻しを行います。また、機械構造用鋼は、焼戻しによって最終製品の機械的性質が調節されています。
焼戻温度は、その目的に応じて100〜200℃の低温領域、または400~650℃の高温領域が用いられており、前者は低温焼戻し、後者は高温焼戻しと呼ばれています。なお、焼戻しの共通の使命は、過飽和に固溶した炭素を炭化物として十分に析出させることですから、十分な加熱保持が必要です。
02 焼戻しにともなう硬さ変化
一般的に、焼戻しすることによって硬さは低下しますが、その程度は綱種によって異なります。
上図は、各種工具鋼を想定した時の、焼戻温度にともなう硬さ推移の概略を示します。炭素鋼であれば(A)のように焼戻温度が高くなると硬さは急激に低下しますが、合金元素が添加されることによって焼戻軟化抵抗が大きくなることがわかります。とくに、高速度工具鋼の場合は(D)のように焼戻しによって焼入硬さよりも高くなります。
03 硬さと機械的性質の関係
硬さは、機械的性質を決める重要な要素ですから、熱処理を依頼する際には硬さ指定し、熱処理する際には硬さによって管理します。
機械試験片の形状・寸法
機械構造用鋼の焼戻硬さと機械的性質の関係
機械構造用鋼の焼戻硬さと衝撃値の関係
上記の機械試験片を用いて、機械構造用鋼(S48C、SCM435)について引張試験および衝撃試験を行い、それぞれ硬さとの関係を示しました。
これらの図から明らかなように、すべての値に対して硬さが支配しています。また、引張強さの箇所の赤線は、参考として硬さ換算表からプロットしたもので、この試験結果ともよく一致しています。ただし、硬さは同じであっても、衝撃値は熱処理条件だけでなく、合金元素にも大きな影響を受け、炭素鋼に比べて機械構造用合金綱の優位性が明らかです。
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