概要
真空加熱の最大の利点は、容易に優れた光輝面がえられることですが、加熱時の圧力選定を誤ると、処理物の表面に多くの弊害が生じます。
01 真空とは
真空とは、大気圧(1.013×105Pa)よりも低い圧力の空間すべてで、圧力の範囲によって低真空から超高真空の領域まであります。熱処理に利用されている範囲は高真空の領域までで、とくに一般の鋼材の熱処理の場合は低真空または中真空程度で十分です。真空を利用すれば処理物表面は活性化されますから、容易に光輝面が得られますし、表面反応も活発になります。そのため、現在では金型の焼入加熱をはじめ、浸炭や窒化の表面熱処理など、広範囲の熱処理に利用されています。
真空の領域(量的な世界) | 圧力の範囲 |
低真空[low vacuum] | 105~102Pa |
中真空[medium vacuum] | 102~10-1Pa |
高真空[high vacuum] | 10-1~10-5Pa |
超高真空[ultra high vacuum] | 10-5Pa以下 |
02 真空加熱にともなう脱元素
すべての物質は、真空中で加熱した際、蒸気圧に達すると蒸発してしまいます。すなわち、マンガン(Mn)やクロム(Cr)など蒸気圧の高い元素が蒸発しやすく、加熱温度が高いほど、また加熱時圧力が低いほど、蒸発量が多くなります。
真空熱処理したステンレス鋼は錆が発生しやすいといわれており、この原因は1)表面の安定酸化物が破壊される、2)蒸気圧の高いCrが蒸発して表面のCr濃度が低下する、からです。とくに2)については、下図に示すように加熱時圧力が低いほどCr蒸発量が多くなります。
ですから、ステンレス鋼製のバスケットを使用して、焼入温度の高い高速度工具鋼を焼入れすると、上図に示すように、この蒸発したCrが付着して高速度工具鋼の表面Cr濃度はむしろ高くなってしまいます。このような真空中で高温加熱する場合には、できるだけ加熱時圧力を高くしたほうが望ましいのです。
03 表面粗さと光輝性
真空加熱は処理物に対して、表面清浄効果(酸化物の解離作用)や脱脂効果(油脂類の分解作用)など多くの効果をもたらします。これらの真空加熱にともなう作用は圧力が低いほど大きいのですが、下図に示すように、熱処理に利用する場合にはやみくもに圧力を低くしてもむしろ逆効果になります。
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