概要
表面熱処理には、高周波焼入れなど表面だけ焼入硬化させる表面焼入れと、炭素や窒素など異種元素を表面から浸透させる熱拡散処理があります。
01 原子の熱拡散
上図は、原子Aに原子Bが接触している状態で加熱されたとき、接触部における原子の拡散の様子を模式的に示したものです。固溶体には2種類のタイプがあり、一つは原子Aの空間に原子Bが強引に入り込んだ侵入型固溶体、もう一つはお互いの原子どうしが置き換わった置換型固溶体です。
侵入型固溶体を生成するためには、原子Bの大きさが原子Aの大きさよりも十分に小さいことが条件となり、この場合の原子Bとしては、炭素(C)や窒素(N)など非金属元素が該当します。置換型固溶体を生成するものは両者が金属元素の場合が多く、しかも原子の大きさも同程度です。
AとBの組み合わせによっては、濃度比が固溶体になりうる限界(固溶限)を超えた場合は、化合物を生成します。このような化合物を生成するものは金属元素どうしの場合が多く、生成された化合物は金属間化合物と呼ばれています。なお、Aが金属原子で、Bが非金属原子のときも金属間化合物に属します。
02 鉄鋼材料に適用されている表面熱処理
鉄鋼材料を対象とした表面熱処理は下図のように、表面焼入れと熱拡散処理に分類することができ、いずれも原子の拡散をともなったものです。
名称 | 表面改質現象 | 主な適用鋼種 | 主な処理目的 | ||
表面焼入れ | 炎焼入れ | マルテンサイト化 | 機械構造用鋼全般炭素工具鋼 | 耐摩耗性、耐疲れ強さ | |
高周波焼入れ | |||||
レーザ焼入れ | 微小部分の耐摩耗性 | ||||
電子ビーム焼入れ | |||||
熱拡散処理 | 非金属元素の拡散浸透処理 | 浸炭焼入れ | 炭素の拡散 | 低炭素鋼全般 | 耐摩耗性、耐疲れ強さ |
窒化処理 | 窒素の拡散 | 全鋼種 | |||
浸炭窒化焼入れ | 炭素と窒素の拡散 | 低炭素鋼全般 | 耐疲れ強さ、耐摩耗性 | ||
軟窒化処理 | 窒素と炭素の拡散 | 機械構造用鋼工具鋼ステンレス綱 | |||
酸窒化処理 | 窒素と酸素の拡散 | 耐焼付性、耐食性 | |||
浸硫窒化 | 硫黄と窒素の拡散 | 耐焼付性、耐摩耗性 | |||
サルファライジング(浸硫) | 硫黄の拡散 | 構造用鋼全般 | 耐焼付性、摺動性 | ||
ボロ内ジング(ほう化) | ホウ素の拡散 | 構造用鋼全般 | 耐摩耗性、耐焼付性 | ||
水蒸気処理(ホモ処理) | 酸素の拡散 | 工具鋼、構造用鋼 | 耐焼付性、耐食性 | ||
金属元素の拡散浸透処理 | ジェラダイジング | 亜鉛の拡散 | 機械構造用鋼全般 | 耐食性(耐侯性) | |
クロマイジング | クロムの拡散 | 耐高温酸化性、耐食性 | |||
アルミナイジング | アルミニウムの拡散 | ||||
炭化物皮覆 | 炭化物層の形成 | 工具綱 | 耐摩耗性 |
鉄鋼材料を対象とした表面熱処理は上図に示すように、表面焼入れと熱拡散処理に分類することができ、いずれも原子の拡散をともなったものです。
表面焼入れは、表面の必要な箇所だけを加熱・急冷して表面硬化させるもので、化学成分は変化しません。それに対して熱拡散処理は、処理物全体を加熱することによって、表面から鉄(Fe)以外の異種原子が侵入して内部に向かって拡散しますから、処理後の表面では化学成分が変化しています。
表面熱処理の主な目的は、耐摩耗性や耐食性であり、その多くは表面硬化処理に属します。上図に、表面熱処理によって得られる硬さを示すように、表面焼入れや浸炭焼入れによって得られる表面硬さは1000HV以下ですが、窒化処理では鋼種によっては1000HV以上にも達します。また、バナジウムやチタンなどの炭化物形成元素を拡散させる炭化物被覆は、炭化物の種類によっては3000HV以上の硬さも得られ、金型などの耐久性向上に寄与しています。
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